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東京高等裁判所 昭和56年(行コ)88号 判決

長野県松本市渚二丁目四番二三号

控訴人

新井貞雄

右訴訟代理人弁護士

久保田嘉信

長野県松本市城西二丁目一番二〇号

被控訴人

松本税務署長

右指定代理人

平賀俊明

佐藤恭一

戸川忠志

佐藤文夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和五〇年一一月二六日付で、控訴人の(一)昭和四七年所得税についてした更正処分のりち総所得金額三〇〇万円、税額三二万二四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分、並びに(二)昭和四八年分所得税についてした更正処分のうち総所得金額四二八万円、税額六三万二八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(但し、国税不服審判所長が昭和五三年三月一七日付裁決で取消した部分を除く。)、並びに(三)昭和四九年分所得税についてした更正処分のうち総所得金額一五〇〇万円、税額四一七万四五〇〇円を超える部分及び過少申告加算賦課決処分(但し、国税不服審判所長が昭和五三年三月一七日付裁決で取消した部分を除く。)、をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。(但し、原判決二三枚目表五行目の「(1)」を「(一)」に、同裏一行目の「減少額」を「増加金額」に訂正する。)

証拠関係は、原審及び当審の記録中の証拠目録記載のとおりである。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当であってこれを棄却すべきものと考えるが、その理由は二のとおり付加するほか、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する。

二  被控訴人の主張に対する控訴人の反論(原判決二四枚目表一〇行目から三一枚目表一一行目まで)についての当裁判所の判断を次のとおり付加する。

(1)  控訴人は、その仕入れた鉄屑のうち七〇%が古自動車であったと主張する。そして控訴人本人尋問(原審及び当審)の結果には、「控訴人は古自動車を仕入れる際には、原則としてこれを仕入伝票に「二級くず」と記載していた。したがって仕入伝票鉄屑二級とされているものの中には多量の古自動車が含まれている。」との趣旨の供述があり、また当審における証人百瀬善吉の供述には、「控訴人に鉄屑を納入する際、古自動車は鉄屑二級として処理されていた。」との部分がある。しかしながら、成立に争いのない乙第二〇号証によれば、本件係争年分当時の国内鉄屑規格を定めたカルテル協定規格においては、「鉄屑二級」とは「厚さ一ミリメートル以上三ミリメートル以下、長さ一二〇〇ミリメートル以下及び幅又は高さ五〇〇ミリメール以下の鉄屑」とされており、古自動車がこれに該当ししないことが認められるのであって、右規格上の分類用語である「鉄屑二級」を仕入伝票上用いながら、その内容がこれと異る古自動車であるとする前記控訴人らの供述は措信することができない。なおこの点に関し、控訴人及び証人百瀬は、右カルテル協定規格は、加工業者が製鉄業者に納入するときの鉄屑の規格であって、鉄屑業者が加工業者に鉄屑を納入するときに用いられるものではない旨それぞれ供述するが、加工業者が鉄屑を分類するに当たり、鉄屑業者から仕入れる場合と、製鉄業者に納入する場合とで、同じく「鉄屑二級」の表示を用いながら、その分類基準を異にするものとは考え難く、右供述は信用することができない。

(2)  次に、控訴人の主張を前提として計算すれば、古自動車の在庫量は昭和四七年末において五四四七・七六四トン以上、昭和四八年末において三六五五・三八二トン以上という多量のものであったことになるが、保管場所との関連から、そのような在庫があったものと考え難いことは前記説示(原判決四一枚目表一一行目から同裏末行まで)のとおりである。ところで、控訴人は当審において、控訴人は在庫の保管場所として解体場のほかに松本市島立町区に一〇〇〇坪程度の土地及び同地上の三〇〇坪の倉庫を有しており、これに加工後の鉄屑を二〇〇〇トン保管することが可能であった旨を供述する。しかしながら控訴人は右土地及び建物について右供述を裏付けるべき証拠を一切提出せず、右供述のとおりの保管場所が存在するものと認定することは困難といわなければならないが、仮に解体場のほかに、二〇〇〇トン鉄屑を保管しうる倉庫があったとしても、控訴人の主張を前提とした場合に算出される昭和四七年末の全在庫量七七八二・五二一トン以上(原判決四一枚目裏一行目)の保管が、右解体場と倉庫によって可能であったとは考え難い。また解体場における古自動車の山積み状態を示すものとして提出された甲第四号証も右判断を左右するに足りない。

(3)  また、資金の前から検討すると、控訴人の主張を前提として計算すれば、昭和四七年末の在庫量が七七八二・五二一トン以上あることになることは前記のとおりであり、これに控訴人主張のトン当り仕入単価一万七七三一円を乗じて計算すると、昭和四七年末のたな卸資産の価額は一億三七九九万円余となる。ところで、これに見合う資金として、控訴人は取引先や金融機関から前受金又は借入金として多額の融資を受けており、その大部分は仕入資金に廻していた旨供述し、またその融資を裏付けるものとして甲第五号証の一を提出する。しかしこれらの証拠によっても、右一億三千万円余の在庫に見合う資金の調達があったものとは認めるに足りない。(なお、成立に争いのない乙第二号証によれば、控訴人が個人で経営していた屑金卸売業を引継いだ訴外株式会社新井商店の昭和五一年三月三一日におけるたな卸資産の額が四七一一万円余であるのに対し、同日の借入金及び前受金の合計額は二億四〇八七万円余であることが認められ、このことからすると昭和四七年当時においても借入金及び前受金の大部分が仕入資金として投下されていたと推認することは困難である。)また昭和四七年末に一億三千万円余の在庫があったとすることは、同年の売上高一億七三四一万円余(控訴人の主張では一億七〇六〇万円余)と比較して不自然といわねばならない。

(4)  なお、更に一言つけ加えるならば、控訴人の主張どおり仕入れ鉄屑の七〇%が古自動車であり、目減り率が古自動車につき二〇%、その他につき五%であるとすれば、計算上鉄屑の仕入単価に不合理な結果が生ずることになる。すなわち、昭和四九年における控訴人の仕入鉄屑の総量は二万六七一八・七二二トン(二万六四〇〇・八三二トン+三一七・八九〇トン)であることは当事者間に争いがなく、これの七〇%が古自動車であるとすれば、その重量は一万八七〇三・一〇五トンであって、目減り二〇%を減じた実質重量は一万四九六二・四八四トンとなり、その他の鉄屑は八〇一五・六一七トンで、目減り五%を減じた実質重量は七六一四・八三六トンとなる。ところで古自動車の昭和四九年における仕入単価は目減り分を含めて一トン二万五〇〇〇円であったことは当事者間に争いがないから、これを目減りを減じた後の実質単価に引き直すとトン当り三万一二五〇円となる。そうすると古自動車の仕入れ金額は三万一二五〇円×一万四九六二・四八四トン=四億六七五七万七六二五円と算出される。そこで当事者間に争いのない昭和四九年の総仕入金額八億〇三九八万五九〇二円から右古自動車の仕入金額を差引くと、その額は三億三六四〇万八二七七円となり、これが古自動車以外の鉄屑の仕入金額ということになる。これを前記七六一四・八三六トンで除すと、古自動車以外の鉄屑の実質仕入単価の平均が算出できることになるわけであるが、その値は四万四一七八円である。すなわち、控訴人の主張を前提として計算すると、古自動車の仕入実質単価はトン当り三万一二五〇円であるのに対し、古自動車以外の鉄屑の仕入実質単価はトン当り四万四一七八円ということになり、両者にこのような多額の相違が生ずる結果は不合理であって容認し得ないところというべきである。(なお当事者間に争いのない昭和四九年の売上金額一〇億九五七六万二一〇九円及び売上数量二万六九八九・八八九トン基づいて計算すれば、その売却平均単価はトン当り四万〇五九八円であり、これと比較しても右トン当たり四万四一七八円の仕入単価は不自然なものというべきである。)したがって、控訴人の主張はこの点からも不合理なものといわざるを得ない。また被控訴人が昭和四九年の古自動車以外の仕入鉄屑として主張する二万六四〇〇・八三二トン及びこれの仕入金額七億九六〇三万八六三二円に基づいて算出される平均仕入単価三万〇一五二円は、前記古自動車の実質仕入単価三万一二五〇円に近い数値でありこれからしても、右二万六四〇〇・八三二トンの仕入数量が、被控訴人主張のとおり、目減り分を減じた後の実質重量を示すものと考えるのが合理的である。

(5)  以上のとおり、控訴人が反論として主張するところは、各面からの検討を加えた結果、到底これを採用するによしなきものといわなければならない。

三  よって控訴人の本訴請求は失当であり、これを棄却した原判決は相当であるので、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鰍澤健三 裁判官 枇杷田泰助 裁判官 奥平守男)

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